8話

 僕は生まれた時から由緒ある貴族の家に生まれながら、家族から迫害を受け育ってきた。
 何故なら、母は、貴族では考えられない小麦色の肌をした僕という子を産み婿養子に入った父の子ではないと判明したからだ。

 父は怒って離婚し出て行った。
 父が出て行ったのと同時に体の弱かった母は僕を産むことで体調を崩し亡くなってしまった。
 残った乳幼児の僕は、運が悪いことに家系特有の魔法も母の魔力も受け継がれてはいなかった。

 母はこの家系で一番の魔力の持ち主。
 それを期待して、嫁にはやらず婿養子をもらったのにも関わらず、母は貴族の父の子ではなく違う人との、しかも愚民との子を宿し産み、そして亡くなってしまったのだ。
 そこからは僕は生まれながらにして嫌われ、迫害され、存在しないもののように扱われた。

 部屋に幽閉され、喋ることも許されず、汚いものを見るように蔑んだ瞳で見られ、何もしていなくても殴られ蹴られる。

 魔力というのは遅く現れることもあるらしい。
 遅くて20歳頃に現れた人もいる事もあり、殺されずに生かされた。
 それ程に母の魔力は貴重なものだったらしい。

 一応魔力が現れた時のためにと、最低限の教養だけは受けさせられた。
 教養といっても喋ることも許されず、発言すれば怒られ殴られる。
 なので勉強は僕にとっては恐怖部屋だった。
 たまに義兄弟達と一緒になったが、その時は最悪だ。
 たくさんの嫌がらせや暴力を振るわれた。
 僕は喋ってもいけない、一緒に息をするだけでも怒られる、生まれてはいけない子だったとして迫害を受けても当然という扱いだった。
 ただその場で見せられる教科書や資料は面白かった。
 僕は一度見たモノは全て覚えられるので新しい教科書が来るのだけが楽しみだった。

 幽閉された部屋は窓もなく真っ暗で、一日に一度運ばれる水と形も残っていない残飯が少し。
 それを食べながら母が残してくれたお人形さんに語り掛けるだけの毎日。
 そしてこの屋敷中の声を聞きながら送る毎日。
 屋敷中の話声が聞こえるので少々うるさく感じる。
 なので幽閉された部屋でも静かだと感じたことはあまりない。
 お陰で母の事や父の事、この家の事情なども部屋に居ながらにして全て把握していた。
 だから幼少の時に全てを諦めていた。
 ただドアが開けば殴られるかもしれないと屋敷の人々の足音に怯える日々だった。

 僕は生まれてはいけない子だったのだ。
 本当は殺してほしい。
 でも殺されることも許されない。
 光のない部屋の中で、ただお人形さんを抱きしめる。

 そうして12年が過ぎた。
 魔力も現れるそぶりも見せない。
 家族も諦め始めたのか教師が嫌がったのか教養時間も無くなり、ただ真っ暗な部屋に幽閉される日々。
 たまにうっぷん晴らしに義兄弟がやってきて暴力をふるっては去っていく。
 ただただ20歳になって殺されるのを迫害を受け恐怖しながら待つ日々。
 とうに生きる希望も消えていた。
 ただただ毎日を震え怯えるだけだった。

 そんなある日、事件が起こった。
 屋敷が騒がしい。
 屋敷の人々の声が錯乱している。
 でもすぐに意味は理解する。
 どうやら戦が近くで起こり、こちらに迫ってきているらしい。
 僕はもっと耳を澄ませた。
 するとたくさんの馬と蹄の音と、何やらゴオオオという音がする。
 その時何となくだが、『ここはアブナイ』と思った。
 そして、何となく目に付いた場所『ここなら大丈夫』と思って、その場所に身を潜めた。
 瞬間、家が燃え上がり、強い風が家を崩していった。

 気づけば周りは焼け野原で、僕は呆然と立ち上がった。
 そして僕の目についたのは家族の真っ黒こげになった遺体。
 辛いとか悲しいとか怖いとかの感情はまるでない。
 僕はそうじゃなくてただ一つ思ったのは『残念』だった。
 どうしてそう思ったのかは解らない。
 彼らを殺したのが自分でない事が残念だった。
 力もないのに自分が殺される立場なのに、なぜそう思ったかは今でも解らない。

 いつまでそんな事を考えながら突っ立っていただろう。
 大人の人が来て色々と言い争ってる。
 どうやら僕の次の引き取り手でもめているらしい。
 僕はいらない子なのだから当然だろう。
 魔力もないし貴族にあるまじき小麦色の肌の子供なのだから。
 ということは、これで殺されるのかと思った。
 だけど、どうやら僕が人目についたことで殺せなくなったらしい。
 この街の宗教上、子供を殺すのはご法度の様だ。
 そんな時、嫌らしい笑みを浮かべ近寄ってくる一人の男がいた。

 それがリディアの義理の父であった。