14話

(さて、どうしたものか…)

 外に出たものの私の手を離さないリオの手を見る。

(成り行きとはいえ、リオを連れてきてしまったわ)

 ヤンデレ属性の彼と一生を過ごすのはごめんだ。
 とはいえ、ここまで連れてきちゃうとリオを撒くのは不可能だろう。
 来るなと言っても、何せヤンデレ属性だ。
 ストーカー行為を繰り返すに決まっている。

「姉さま!こっち!」

 不意に腰を掴まれ引き寄せられる。
 すると目の前にか弱い女の人が走りこんできたかと思うと、見るからに賊な輩が女の人を揶揄う様に取り囲む。
 街の人たちが心配そうな目で見るも素知らぬ顔して通り過ぎていく。
 女の鞄を取り上げるや否やお金や金目の物を全て懐にしまい、そして男たちの顔が厭らしい顔つきへと変わる。

(うわぁーマジか…リアル男向け18禁)

 ここが街のはずれだと言っても道のど真ん中で堂々と賊が女の服に手を掛ける。

「っ!」

 リオが急に私の手を引っ張り走る。

(やっぱ受け付けん、これにラブ要素あると萌えるんだけどなー)

 何が萌えなのか。何が。と、突っ込みは置いておいて、リディアはプレイ趣向はオールマイティだった。だが、拘りがある。ただ自己満だけの犯りたい放題なドラマも減ったくれもないのは嫌いだった。

(男向けはシチュエーションは良いんだが、ストーリーは犯りたいだけの超低能ばかりなんだよねー)

 手を引っ張られながら呑気に考える。

(やっぱ心は欲しい、愛は必須!)

 男性向けも読んでたんかい!というツッコミは置いておいて、リディア達の背後で何人かの大人の足音を聞く。

「何をしている!」
「チッやべーっ逃げるぞっ」

 街外れと言えどここは街の中だ。
 振り返ると巡回していた兵が駆けてくるのが見えた。

(そりゃそーだよねー、…けど)

 リディアは顎に手を当て思考に耽る。
 最近、噂で隣街に魔物がでたという。
 賊がこちらの街外れにやってきたのはその影響なのかもしれない。

(となると…)

 自分の鞄に目を落とす。
 私の大切な軍資金。
 そして自分のやせ細った腕を見る。

(こんなか弱い女がこんな大金持っていたら危ないわよね)

 あっという間に狙われ、巻き上げられてしまうだろう。
 それだけじゃない。
 今の女性のように、貞操の危機もある。

「姉さま、こっち!」

 歩いていた道を外れ、どんどんと路地へと入っていくと、その先に小さな川があった。
 リオは私を抱き上げると川へと降りる。

「いっぱい歩いたから、そろそろ喉が渇いているでしょ?」

 リオの指摘で喉がカラカラになっていることに気づく。
 川に口をつけて飲む。

「ぷはっ美味しい」

 生き返った気分だった。
 家を出てからずっと緊張していたらしい。

「水筒も必要だね、僕も幾らかお金あるから後で調達してくるよ、姉さまは安全なところで待ってて、足、少し引きずっていたでしょ?」

 リオはこんな状況でもしっかりと私の事や周りの事を見ていた事に感心する。

(ふむ…、これは使えるかも…)

 さっきの賊も、かなり早くから察知していた。
 傭兵の勘だろうか。
 リオは耳も目も凄くいい。
 状況判断も的確だ。

(流石チート設定ね)

 そしてそのチート設定。
 これは使えるとリディアはちらりと水を飲むリオを見る。
 今現状、こうして賊も出てくる中、私一人で対処できるかは非常に怪しい。

(しばらくリオと一緒に行動するのもありかもしれない…)

 このまま街を出ることが出来れば、他の攻略男子に会わずに終われる。
 となると、フラグもこれ以上立ちようがないはず。

(そういや、ヤンデレになると思ってたけど、もしかして…)

 フラグが立たなければ、ヤンデレ回避できるかもしれない。

(ならば、しばらく一緒でいいや)

 あっさりと予定変更を決めるリディア。
 だが、この時のリディアはまだ知らない。
 既にリオと目を合わせた時点でヤンデレを目覚めさせてしまっていることに。

「姉さま、ほかに必要なものある?今から僕、調達に行ってくるよ」

 水を飲み終わり、リオが振り返る。

(他に必要なもの…か…)

 この先、今の街とは違う街へ行き、そこで仕事を探しお金を貯めて家を買う。
 この街にいたら、攻略男子と出会ってしまう危険性があるのだ。
 そのために何としてでもこの街を早く抜け出したい。
 そして、できるだけ遠くの街へ行き、働き口を探し、家を買うお金を貯めなければいけない。

(・…となると必要なものは)

 この街は広い。
 ここを抜け出すのに結構時間を要するだろう。
 そうなると野宿の可能性もある。
 それに、遠くの街に行くには隣り街を抜けないといけない。
 賊がそちらからきているとなると、どこかで襲われる危険性だってある。
 それに魔物が出るとなると戦わないといけない事が起こるかもしれない。
 川に映る自分の姿を見る。

「! そうだわ」
「姉さま?」
「リオ、あなたもう一着服は持っている?」
「? うん、持ってるけどどうして?」
「それ、私に頂戴」
「?? それは別にいいけど」
「そうね、あと男用の靴も一つ調達してきて」
「姉さまが履くの?」

 リオの質問に頷く。
 先ほどの女性の事もある。
 こうしてずっと一緒に行動できない事もこれから出てくる。
 となると男装している方が少しは安全だ。
 そしてもう一つ、

(聖女は女性、男装していれば見つかる心配もない)

「あとは野宿しても大丈夫な準備をお願いできる?」
「任せといて!」

 私に命令されるのが嬉しいのか、リオが爛々と顔を輝かせる。

「姉さま、こっち!」

 リオがまた私を引っ張り歩くと、川を上流に向かった先にちょっとした茂みに覆われた場所があった。

「ここなら大丈夫と思う、でももし何かあったら、あちらの方向に走って逃げて、そしたら街中にすぐに出られるから」

 そういうと最後に「ここで待ってて」と言ったかと思うとリオは姿を消した。

「相変わらず、凄いわね~」

 感心しながら、やれやれと首を鳴らす。

「さてと、私も準備しなきゃ」