17話

「ほぉ、仲間が居たか…姉さまと呼んだな、なるほど、兄妹で逃避行ってわけか」

 2号が目を細めリオを睨み見る。

「しかし、気配を全く察知できませんでした、貴様、一体何者なのか言いなさい」
「‥‥」

 リオとドS軍師が睨み合う。

「姉さま、しっかり掴まってて」

 小さく耳打ちしたかと思うと、目の前の景色が消えた。

「!」

瞬間、

「遅い」

ザシュッ

 と派手な音が鳴った。
 その音の方を見て瞠目する。
 ドS軍師の剣がリオと私の前に突き刺さっていた。
 その剣の先に紫色の目が怪しく光る。

「残念でしたね、動きは確かに早い、だがその細い筋肉で私に適うとでも思いましたか?」

 リオが小さく舌打ちする。

「欲しいな」
「ダメです、今それどころじゃないでしょう」
「解っている、言ってみただけだ」

 2号がリオの動きに関心を示すが、すぐにドS軍師に止められる。
 そのドS軍師の目はリオから離れない。

「さて、白状してもらいましょうか?」
「‥‥」
「貴方は何者です?いえ、貴方達はなにものなのです?答えなさい」
「‥‥」

 リオが私を見る。
 どうすればいいか指示を待っているように私を見つめる。
 こうなっては仕方がない、逃げられないのなら答えるしかない。

(まぁ、義家族の名前出さなければいいか…)

 修道院だか何処だか連れていかれる途中で逃げればいい。

「えーと…、何者って怪しい者じゃないわ、さっきそこの2号が言った通りよ」
「2号?」
「あ、いえ、コホン、そこの王子さんが言った通りって言ったの」
「!」

瞬間、空気が張り詰める。

「え?」

 眼つきの変わった二人。
 それだけじゃなく、リオもまた驚いたように私を見ていた。

「どうしたの?」
「ね・・さま、王子って?」
「え?リオはまだ知らないの?そこの赤い髪のが第一王子で、その隣がその臣下のドS軍師」
「ドS… プっ…」

 その言葉がヒットしたのか2号がまた笑い始める。
 だが、張り詰めた空気は取れない。

「如何にも、私は第一王子ジークヴァルト様の第一の臣下であり軍師、サディアス」

(ジークは何か覚えあるわ、サディ…そんな名前だったっけ?)

「どうやって知ったのです?私達の正体を」
「え?皆知ってたんじゃ…?」

 射る様な鋭い視線が私に刺さる。

(え?もしかして街の人は知らない設定?…マジか)

「か、感?女の感~みたいな?」

 さらに怪訝な眼つきに変わる。リオが心配そうな目で私を見る。
 その男達の後ろに何か黒い影が揺らめく。

(そういや、いま魔物とか戦乱とかあって緊張状態なのよね…)

「えーと、その一つだけ確かなのは私達は敵じゃないわ」
「証拠は?」
「ぅっ…」

 ドS軍師が一歩近づく。
 リオが私を抱き込み、体を割って入る。
 また一歩近づいた時だった。

「イケナイ」

 リオがそう呟くと私を背に抱き込む。

「そうはいきませ―――?!」

 何かを察知したようにサディアスの動きが止まる。

「サディ!!そいつらを守れ!」
「はっっ」

 ジークヴァルトの指示が言い終わらないうちに、リオと私を同時に抱きかかえる。

「何?!」
「黙りなさい、舌を噛みますよ」

 そのままふわりとその場を飛びのこうとサディアスが地を蹴った瞬間だった。
 けたたましい何か悲鳴のような鳴き声を聞いたと思ったら、凄い圧が襲い掛かる。

「!!」

 そして私はサディアスの背の後ろに見える大きな魔物に目を見張った。

「こんなところまで…っしかもかなり強い」
「サディ!」
「はっっ」

 ジークヴァルトの掛け声とともにサディアスが水の壁を作る。
 その先でジークの手に大きな炎が宿る。

(おおっっリアル魔法!!!)

 エリーゼの生活魔法の小さな火などではない。
 本物の魔法を目の当たりにしている事にリディアは興奮に目を輝かせた。

「姉さま、掴まって」
「え、もうちょっと…」

 今が逃げるチャンスと捉えたリオが、もっと見たがる私を無理やり抱きかかえる。
刹那、私たち二人に怒涛の勢いで水が押し寄せる。

「な、何?!」
「姉さま!大丈夫?!」

 水の勢いで離れてしまった私に駆け寄るリオ。
 その前でゆらりと大きな図体が起き上がる。

「ジーク様…、ジーク様!!くそっっ」

 サディアスの見る先を見ると、ジークが酷い怪我をして膝を地に着けていた。

「何が起こったの?」

 水の壁で音が吸収されて、何が起こったかまるで解らない。
 そんな私達の前でサディアスの周りに大きな水の柱が出来る。
 更に呪文を唱えるとその水の柱は大きな水の矢となり魔物目掛けて飛ぶ。

「姉さま!逃げよう!」

 リオが焦ったように私を掻き抱き地を蹴るが、次の瞬間には二人地面に突っ伏していた。

(一体何が起こったの?)

 私の上を覆いかぶさるようにして、リオがピクリとも動かない。

「リオ?」

 リオをポスポスと叩く。

「…ナイ…キズ…ケナイ…キ‥ツケ…イ…」
「?」

 何か小さくブツブツ呟くリオの声。

「ね、リオ、ちょっとどいて」

 状況が解らないと何もできないと、リオをどけようとするがビクともしない。

「じっとしてて…、姉さま、こうしていれば姉さまは大丈夫だから」

 不意に頬にヌルっとした生暖かい感触を感じ、自分の頬に手を当てる。

(血?!)

「リオ?怪我しているの?」
「大丈夫、姉さま、大丈夫だから」

(絶対大丈夫じゃない!チート設定のリオがこれってやばいよね??)

――― 死亡フラグ?

 いやいやいや、こんな序章で死亡するなんて聞いてないよ?と、とにかく状況を把握せねばと、リオの中で必死にもがく。その必死にもがいて出来た隙間から周りを見渡す。

「!」

 そこにはジークヴァルトと、サディアスがボロボロになって地に手を付いていた。
 そしてその更に先にはあのデカくて強そうな魔物が宙に浮いてゆらゆらしている。

(これって…)

 リディアの脳裏にゲームで見たこれと同じシーン映像が浮かぶ。

(そうだ、リディアが最初に魔法を使ったシーン)

 皆の絶対絶命のシーンで皆を守りたいと強く願うと光が出て魔物が消えてなくなるというシーンだ。
 ただこれにより、徴 + 光魔法 で聖女の可能性があるとされて、聖女試験に連れてかれちゃうのよね。
 聖女試験に連れていかれるのは嫌だ。

(とはいっても、うーん、逃げられないよね…)